G.ガーシュウィンピアノ作品集〜江口 玲編曲〜全音楽譜出版社  


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ジョージ・ガーシュウィンGeorge Gershwin (1898-1937)

ガーシュウィンの音楽 〜 演奏家からの視点

ラプソディ・イン・ブルーやピアノ協奏曲をみると、クラシックの作曲家としてのガーシュウィンの姿を見い出すこともできるのだが、基本的にはミュージカルやポピュラー、ジャズ作曲家としてのイメージの方がやはり強い。
ガーシュウィンは概要で次のように述べている。
「アメリカのポピュラー音楽を最も効果的に演奏するには、当然のように過度に使用されるペダルを避けなければならない。偉大なロマン派の作曲家達の作品がレガート奏法を要求されるのに対し、私達のポピュラー音楽ではスタッカート奏法が必要とされる。」
ピアニストでガーシュウィンの研究家であるアリシア・ズィッツォAlicia Zizzo女史は次のように述べている。
「ジャズ、ポピュラー方面のピアニストたちはガーシュウィンに対して非常に良いフィーリングを持って演奏できるが、残念ながら技術的な面において、必ずしも満足のいくだけのものを持ち合わせていない場合が多い。クラシックのピアニストたちはその技術を持ち合わせてはいても、残念ながらガーシュウィンの要求するフィーリングを持ち合わせていない場合もある。」

ガーシュウィンの演奏スタイルを知るためには自演を聴くのが一番適当であろう。たとえば、「ラプソディ・イン・ブルー」ではグロ−フェ編のごく初期のものと推測される、ガーシュウィン自演のSPレコードが存在する。この演奏を聴く限り、かなりの軽快なテンポで見事なエネルギーを持って演奏されている。ところが、そのタイトルの持つ、ブルー=やや気分のすぐれない、またはやや憂鬱な、という意味合いから、現在ではガーシュウィンのそれよりもかなり遅めのテンポで演奏されることが多い。(ガーシュウィンがこの「ブルー」に対して、そのような意味を含ませたかどうかは不明である。タイトルを付ける際、ジェイムズ・ウィスラーJames Abbott McNeill Whistler (1834-1903)の絵画、「ハーモニー・イン・グレイ・アンド・グリーン」Harmony In Gray and Green、「ノクターン・イン・ブルー・アンド・グリーン」Nocturne In Blue and Green、等からヒントを得たとされている。)ガーシュウィンは多くのピアノロール(当時の自動演奏ピアノ用のロール)を残しているが、当時の習慣、あるいは彼自身の希望により、重ね録りをしてあたかも四手で弾いているかのような豪華さを演出する事が多々あった。それにより、ピアノロール再生時のテンポについても、実際の録音時より早めに再生しているのではないか、という疑問を持つ人がいる。再生時のテンポについての信憑性は調べるすべもないが、実際そのテンポで演奏することは非常に技術上の困難さを伴うことは確かである。前出自演の生演奏の録音がテンポ設定を語る上で、やはり一番妥当なのではないかと思う。SPレコードからの復刻ゆえ、多少のピッチの差、すなわち速度の差を考慮しても軽快な速度である。
ミュージカルナンバーを聴くと、そこに非常にたくさんの即興性が見られるが、基本的には正確で速めのテンポは崩されていない。前奏曲第2番のようにゆっくりなテンポが指定されているものでさえ、一様に速めである。そこに彼の楽曲の演奏スタイルの理想がある。彼は決して過剰な装飾、感情移入を望んでいなかったのではあるまいか?

しかしながら、音楽における絶対性を信用しない私個人としては、これからガーシュウィンを弾いてみようと思われるかたがたに、これらの事実ははただ単にインフォメーションの一部と思っていただければそれでよいと思っている。各自に好きなように解釈することも、演奏の楽しみでもあるから。

今回の編曲の意図は、ガーシュウィンのスタイルに忠実であることを前提とし、コンサートでも充分な演奏効果があがるようにするものである。技術的には、近代グランドピアノの3本のペダルを複雑に使い分け、かなり高度なテクニックを必要とし、また手の小さい人にはかなり演奏困難な部分も多いが、それはガーシュウィンらしさと最大限の演奏効果を求めた結果である。私はガーシュウィンの学術的研究家ではない。単にピアニストとしてガーシュウィンに魅了され、この楽譜の出版を期にして、ガーシュウィンの作品がより一層クラシックのピアニスト達にも魅力のあるものになるよう、そして演奏される機会が増えるよう、願ってやまない。また私自身の編曲によるラプソディー・イン・ブルーの演奏はCD、DearAmerica, (NYS-81016) に収録されている。



  曲目



Rapsody In Blue
ラプソディー・イン・ブルー



Suite "Porgy and Bess"
ポーギーとベス組曲

Introduction, 序奏
Catfish Row, ナマズ通り
Summertime, サマータイム
A woman is a sometime thing, 女は気紛れなもの
Oh doctor Jesus, おお イエス先生様、
Strawberry Call, いちご売り
It ain't necessarily so, そうとはかぎらない




Kickin' the Clouds Away
キッキン・ザ・クラウズ・アウェイ



Sweet and Low - Down
スイート・アンド・ロウ・ダウン



3 Preludes
三つの前奏曲

Prelude No.1, 前奏曲第一番
Prelude No.2, 前奏曲第二番(Blue Lullaby)
Prelude No.3, 前奏曲第三番(Spanish Prelude)




I got rhythm
アイ・ガット・リズム











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