〜〜 曲目解説 〜〜  


8

サムタイムズ・アイ・フィール・ライク・ア・マザーレスチャイルド
サミュエル・コルリッジ=テイラー作曲
Sometimes I Feel Like a Motherless Child
By Samuel Coleridge-Taylor



 サミュエル・コルリッジ・テイラー (Samuel Coleridge-Taylor, 1875-1912) はイギリスのクリオール(アフリカ系と白人との混血)である父と白人の母との間に生まれた。 何度かおとずれたアメリカで、黒人たちからは非常に尊敬される存在であり、白人の音楽家たちからは「アフリカのマーラー」と呼ばれた。
 次の二曲は黒人霊歌を題材にした「24の黒人のメロディー(24 Negro Melodies, Op59)」 からの抜粋である。

     時々、母のいない子供になったような気がする
     故郷から遠く、遠く、離れてしまって
     時々、俺はもう長くはないんだろうと思う
     天国に昇って行くんだ


 主の意のまま買われ、売られていく奴隷たち。自分たちにとって「自由」とは全く手の届かないもの。 奴隷として生まれ、奴隷として死んでゆく、短くて、長い一生。 この命が終われば行き先は天国。そう信じて毎日を生きていたのだ。 しかしここにもかすかな希望が見られる。解放されるのは"Heaven"「天国」へ、とは言わず、"Heavenly Land"「天国」または「天国のような地(自由の地)」だと言う。 ちなみに1850年頃の奴隷の平均寿命は約32歳であったと言われている。幼少の死亡率を考慮してもあまりに短い命である。


9

ディープ・リバー
サミュエル・コルリッジ=テイラー作曲
Deep River
By Samuel Coleridge-Taylor



     深い河、俺のふるさとはヨルダン河の向こう側だ
     深い河、神様!俺は川向こうの集会所に行きたいよ
     ああ、行ってみたいと思うだろ?福音に満ちた礼拝に
     あの安らぎに満ちた希望の地に!
     ああ、深い河、神様、俺はこの河を越えて行きたい


 黒人霊歌の中でももっとも有名で美しいものの一つである。 深い河とはヨルダン河のことであり、エジプトに奴隷として連れて行かれたイスラエルの民は、その河の向こうの聖地、カナンに想いを馳せた。 やがて彼らはモーゼに導かれて念願のカナンにたどり着く。
 ノースキャロライナ州には実際にディープ・リバーという名の河がある。 その河を渡った向こう岸に、奴隷解放運動にたずさわるキリスト教の一派であるクウェイカー教徒の屋外礼拝所があった。 ミシシッピー河もまたディープ・リバーと呼ばれる。この河の向こう側は北軍の地であった。
 南部の奴隷達にとって、決して越えることのできない、深い河。この河さえ越えることができれば、自由が手に入る!




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